蕎麦屋ではないが、旨い蕎麦をつくる人がいる。タケダ マサオさん(仮名)50代後半。
整体師からみるタケダさんの腹痛と腰痛は、ストレスが原因であろう。肝臓とつながる場所(太股の内側、膝や踝の内側など)が、カッチカチに固い。もちろん、みぞおちも腫れあがっている。
施術のたびに少しずつ探っていくと、どうやら「怒り」をためこんでいる様子。
気持ちを言い表すのが苦手。話相手の言葉に「ちょっと違うんじゃない?」「こういう考え方もあるよね?」と思ったとしても。気持ちを言葉にする前に、相手の話が先に進んでしまう。
黙っているから、相手は同意されたと思いこみ、先へ進む。「ちょっと、じゃなくて全然違うだろ!」「自分の考え方だけが正しいと思うなよ!」とは言葉に出せぬまま、相手の話はドンドン進む。我慢の沈黙に対し、相手からの攻撃(言葉)は止まらない。タケダさんにとっては強烈な対人ストレスだ。
人間関係ストレスと痛みの話をした。その日から、タケダさんの「怒りアウトプット」がはじまる。過去のできごと、そのとき抱いた怒りを思い出す。顔面硬直・体の震え・体温低下による虚脱感など、体が怒りの放出に苦しんでいるのがわかる。
ところがカウンセリング後の雑談で、「蕎麦」については滑らかに語る。いや、別人か?
そうか。そういうことなのかも。大好きなことなら、アウトプットできるんだ。直接「怒り」にフォーカスしなくたって、言葉を放出することで、楽になってもらえばいい。
そんなわけで、この本ができあがった。
「蕎麦」を語るとき、いつもの物静かで謙虚なタケダさんは変化した。コツコツ学び、じっくり調べる。トライ・アンド・エラーを何度でも繰り返す。豊かな自尊心と、自分への冷静な視線。熱く語るかと思えば、ちょっと皮肉屋だったりして。
で、何が起こったかとおえば。「怒り」が小さくなってしまった。ひたすら「好きなこと」を存分に話してみたら、無意識に「今まで言えなかったこと」も放出していたのかも。「お題」の設定は大事。
おしゃべり苦手な男性が、心の内を語るのは、それ自体がストレス。テーマが「怒り」「悲しみ」「緊張」となると、更にしんどい。とにかく「好きなこと」を好き放題に語るのは、ひとつの効果的アプローチになる。
核心に触れないから緊張しない。緊張しないから話せる。話そうと思ってもいなかった、心の奥底にあるものまで、つい話す。これまでのカウンセリングでは「自分」について語らなかったタケダさんが、「蕎麦」をきっかけに何らかの制約を脱ぎ捨てた。自己開示、自己表現のきっかけになった。
こういうセッションもありかな、という提案でもあり。さて。カウンセラーとしての効能書きは、以上。
ここで質問。
質問一:蕎麦、お好きですか?
質問二:お気に入りの蕎麦屋、ありますか?
質問三:蕎麦オタクの話、興味ありますか?
ひとつでも「はい」と回答された方は、どうぞ続きをお読みください。
【Amazonレビュー投稿より】
しん様
★★★★★
2021年11月11日に日本でレビュー済み
無口な人が集中して作るものって信頼度が高い。このお蕎麦は本当に美味しそう。よだれが〜。カウンセラーの何気ない問いかけや応答に、タケダさんがドンドン調子に乗っていく様子も面白くて。新ジャンルの本だと思います。
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