「神やん」というシリーズ本の紹介をしています。
ダメな神様と、心理カウンセラー月子、そして相談者が織りなす、メールカウンセリング物語です。
昨日につづき、第3巻の話をします。
しおりさんとのセッションが終わり、次の相談者さくらさんのことです。第1巻で登場した、あの、さくらさん。
あのとき真っ暗闇の中にいた彼女に、一筋の光が差しました。今回の彼女は、真っ暗ではありません。
自分には味方がいると、知ったからです。セキセイインコのキミちゃん。キミちゃんを助けてくれた獣医さん。いつでも相談できる月子さん。そして他の誰よりも、さくらさん自身が、一番の味方です。
でも今、迷っていることがあります。お母さんのことです。
突然ですが、救急隊員は、自分の家族を救急搬送しない、と聞いたことがあります。冷静な判断・行動に支障をきたす、可能性があるからだそうです。
心理カウンセラーも同様です。家族・友人・恋人・部下などに、カウンセリングをしないものです。既にある関係が、カウンセリングの過程に影響を与えるからです。
もうひとつ。たとえば関係のある二者のカウンセリングを、同じカウンセラーが受けることは、原則として、ありません。
※夫婦カウンセリング、親子カウンセリングなど例外もあります。
さくらさんからの相談は、お母さんのこと。初回のメールを読めば、そのお母さんというのが、しおりさんなのは明らかです。これは、とてもやりにくい。
神やんは第2巻でも、反則しましたよね。
恋人同士である夏子さんとタケルさんを、同時にカウンセリングすることになりました。月子に言われていたのに、またもや反則。
さくらさんの笑顔がみたくて、という神やんの気持ちもわかるけれど。しおりさんとのセッションが、さくらさんとのセッションに、影響したらダメなのです。
22歳、女性、引きこもり。そんなふうに言ってしまえば、それだけのこと。年齢、性別、職業、年収、家族構成。などなどなど。社会の仕組みが、私たちをどこかの枠に入れようと待ち構えています。
枠の中にいると、安心なようですが、根源的な不安から逃げることはできません。
さくらさんは22歳、女性、引きこもりです。その壮絶な来歴の詳細は、彼女のメールに
明かされていません。でも月子には通じました。
よく生き延びたね、さくらさん。そのメールから、おそらく5〜6歳で彼女の一部が成長をやめたことがわかります。恐怖から逃れるために、心を閉じたのでしょう。
彼女の心に、他者への愛情が育まれたのは、奇跡、としか言いようがありません。神やんが反則技を使ってでも助けたいと願う、美しい魂。
さくらさんの痛みを感じた月子は、こんな提案をします。
「それでね、さくらさん。苦しいときに、苦しさの欠片(かけら)を、誰かに預けることができるんです。全部はできないけれど、小さな欠片なら預けられます。
もしよかったら、私に預けてみませんか?苦しみの欠片を預けたら、少し体が軽くなるかもしれません。笑ったり、踊ったり、美味しいものを食べたりする元気が出てくるかもしれません。」
このメールを読んださくらさんは、苦しみの欠片を月子に預けることにしました。
「私のかけらを、よろしくお願いします。月子さんが預かってくれると思ったらすごく安心しました。いつまで預かってもらえますか?」
さくらさんの欠片を、月子は大切に預かります。さくらさんの大好きな、黄色い箱に入れて。
「たしかにお預かりしました。いつか、もしかしたら、箱を開けてみたくなるかもしれません。その時が来たら、お返ししますね。」
誰かに頼る。
誰かに甘える。
ってことが、できない。
頼ったり甘えたり、して、いいんだってことを知らない。
そんな人の、苦しみの一部を月子は、箱に入れて預かることにしています。
大人になることを恐れていた、さくらさん。彼女が知っている大人は、怖い人たちでした。怖くない人も、いる。優しくて、大好きになれる人もいる。何もかもが、怖いわけじゃない。
さくら:「私、大人になれますか?」
月子の考える、大人とは「のびのびと生きたいように生きる。自分の時間と空間をもつ。日々の暮らしに必要な物と、それを手に入れるお金を確保する。」というようなことです。
さくらさんが大人になる方法を、神やんと月子は考えています。
のびのびと生きられるなら、大人になりたい。
そう願うさくらさんに、月子は「好きなもの」や「ずっと続けても苦しくないこと」「あっという間に時間が過ぎること」「やってみたかったこと」などを言葉にするよう促します。
これまでの人生で、さくらさんが考えてもみなかった問いかけです。恐怖から逃れることだけが、彼女の人生だったからです。
さくらさんは、大人になる準備を始めることになりました。