かわいいという言葉は複雑怪奇。
あなたが想像もしなかった、不思議な形で使われることがあります。
さらに!
人間関係の変化とともに、その意味が変わることもある。
今回は、以下の活用について解説していきます。
「かわいい」=「どうでもいい、っていうか、不愉快なんですけど」
無関心的用法「どうでもいい」
一段と分からなくなってきましたか?
が、無関心的用法は、よく使われているので、しっかり学んでおきましょう。
ケーススタディ(上級)
【ケース5】女性JAと男性JB・夫婦
人間関係が悪化すると、かわいいという言葉に込められた感情はねじれ、複雑なものになっていきます。
※JAが妻。JBは夫。結婚3年目。JAの脳裏に「離婚」の文字がちらつくこともある。
JB:ただいま。
JA:おかえり。
JB:帰ってたんだ。
JA:あなたも早かったね。
JB:うん。今日はノー残業デーだから。
JA:ふーん。
JB:夕飯どうする?
JA:私が先に帰ってきたから。担当だから。
JB:買い物してこようか?
JA:いいよ。冷凍庫に何かあるでしょ。
JB:そう?
JA:ワンプレでいいでしょ?適当にかわいいの作る。
JB:え?
JA:外に食べに行く?
JB:あ、いや、家で。まだちょっと、資料とか見ないと。
JA:プリンター調子悪くない?
JB:そろそろ買い替え時かもね。
JA:選んで買っといてよ。
JB:わかった。色とか、決めちゃっていいの?
JA:いいよ。でも、かわいいのにしてね。JB:え?
JA:じゃあ、選んだら買う前に教えて。
JB:うん。わかった。
JA:それか、これにする?
JB:今日?
JA:けっこう、かわいいんじゃない?
JB:でも、高くない?
JA:でも、かわいいから。
JB:いいけど。
JA:じゃあ、いい。何か作る。
JB:いや、これでもいいけど。
JA:で、どうなの?あの、かわいい後輩の子。
JB:え?誰?
JA:インスタ見てた子。後輩とか言ってたでしょ?
JB:そうだっけ?
JA:かわいいよね。
JB:そう?
JA:かわいいと思わない?
JB:普通じゃない?
JA:かわいいと思うけど。
JB:そう?
JA:会ってるの?
JB:え?誰と?
JA:だから、その子と。
JB:仕事だから。
JA:ふーん。
JB:やっぱ食べに行く?
JA:着替えたら作るから。コンビニ行ってきて。明日の食パンと卵がない。あと、今日のデザート。
JB:オッケー。デザート、何がいい?
JA:生クリーム系の。かわいいの。
JB:っていうか。
JA:写メして。選ぶから。
JB:わかった。あ、あとさ。
JA:何か要るものあったら、買っといて。
JB:いや、そうじゃなくて。あの、うちの母親の誕生日なんだけど。
JA:来週だっけ?
JB:行ける?
JA:断れないでしょ。
JB:プレゼント、どうしよっか?
JA:あなたが決めて。
JB:でもさ。
JA:あなたが選ばないと、お義母さん喜ばないから。
JB:何がいいかな。
JA:お義母さん、かわいいもの好きだから。適当に、かわいいものでいいんじゃない?
JB:一緒に選んでくれない?
JA:無理。お義母さんのかわいいって、よくわからないから。
JB:花とか?
JA:お義母さん、花が好きなの?
JB:どうかなぁ。どう思う?
JA:いいんじゃない?
JB:じゃあ、花。あと、何がいいかな。
JA:他にも買うの?
JB:いや、花だけって、なくない?
JA:私の誕生日、花だけだったよね?
JB:薔薇の花束がいいっていうから。けっこう高かったし。
JA:ケーキもなかったよね。
JB:そっか。ケーキも買わないと。おすすめって、ある?
JA:ケーキ&かわいいで、検索すれば?
JB:そっか。かわいいケーキ、了解。
JA:先にコンビニ行って。
JB:わかった。じゃあ、行ってくる。かわいいデザートと食パンと卵ね。
JA:写メしてね。決めるから。
JB:オッケー。
会話の背景と解説
女性を大切にする優しいJBだと思っていた。
JAを愛し、JAの母親も大切にしてくれるはずだった。
結婚して間もなく、JBが母親の指示なしには何も決断できないことに気づいた。
妻のJAに何でも相談してくるが、結局は母親にLINEで相談してから決める。
やってられない。
いっそ浮気してくれたら離婚できるのに。
マザコンじゃ慰謝料も出ないし。
離婚情報を検索してばかりいるJA。
JB:ただいま。
JA:おかえり。
※5分前に帰宅したばかり。
JB:帰ってたんだ。
JA:あなたも早かったね。
JB:うん。今日はノー残業デーだから。
※水曜日だから。毎週同じだから。
JA:ふーん。
JB:夕飯どうする?
※早く帰宅した方が夕飯担当、というのが夫婦のルール。
JA:私が先に帰ってきたから。担当だから。
※コンビニでデザート買ってくればよかった。5分差で夕飯担当。失敗した。イラつく。
JB:買い物してこようか?
※JAのイライラを感じ、オドオドしている。
JA:いいよ。冷凍庫に何かあるでしょ。
JB:そう?
JA:ワンプレでいいでしょ?適当にかわいいの作る。
※レンチンでハンバーグとミックスベジタブル。冷凍ご飯とカップスープ。プレートは藍色で完璧だね。「ビジュアル」「彩り」が大切。ビタミン・ミネラルはサプリで補充する。
JB:え?
※かわいいワンプレート・ディナーをイメージできず混乱。
JA:外に食べに行く?
※脳内で描いたメニューを否定されたように感じ、やる気が失せた。
JB:あ、いや、家で。まだちょっと、資料とか見ないと。
JA:プリンター調子悪くない?
※外食を却下され、更に気分悪し。話題を変える。
JB:そろそろ買い替え時かもね。
※PC周りの管理担当は夫、という共通認識あり。
JA:選んで買っといてよ。
※そっちの担当だからね。当然でしょ。
JB:わかった。色とか、決めちゃっていいの?
※あとで文句言われたくないし。
JA:いいよ。でも、かわいいのにしてね。
※黒は埃が目立つからやめてよね。安っぽくない、スタイリッシュな白だからね。
JB:え?
※ピンク色の、キャラクターつきプリンターを想像している。ないでしょ、そんなプリンター。
JA:じゃあ、選んだら買う前に教えて。
※全然わかってないよね。でも説明するのが面倒。
JB:うん。わかった。
JA:それか、これにする?
※近所に小さなイタリアン・レストランがオープンした。ポスティングちらしに、デリバリーのメニューが入っていたのを見せる。
JB:今日?
※作るって言わなかった?
JA:けっこう、かわいいんじゃない?
※ピザのトッピング、配達員のイメージ写真などが美しく、レイアウトもお洒落。
JB:でも、高くない?
※ねぇ、作るって言わなかった?
JA:でも、かわいいから。
※ビジュアル的に気に入った。
JB:いいけど。
※機嫌悪くなるとイヤだなぁ。
JA:じゃあ、いい。何か作る。
※反対なのね?
JB:いや、これでもいいけど。
※あぁ、機嫌悪くなってる~。
JA:で、どうなの?あの、かわいい後輩の子。
※何となく気分が悪いので、攻撃に転ずる。あの子って、地味で平凡だよね。
JB:え?誰?
※夕飯、どうする?
JA:インスタ見てた子。後輩とか言ってたでしょ?
JB:そうだっけ?
※ねぇ、夕飯、どうする?
JA:かわいいよね。
※私の方が、かわいいけどね。
JB:うん。かわいいけど。
※っていうか、かなり、かわいいんですけど。
JA:かわいいと思わない?
※全然かわいくない。
JB:普通じゃない?
※ねぇねぇ、夕飯は?
JA:かわいいと思うけど。
※完全に私の勝ちだけどね。
JB:そう?
※だから、かわいいけど。かなりかわいいって、みんな言ってるけど。
JA:会ってるの?
※会ってるんでしょ!
JB:え?誰と?
※悪いこと、してないよ。ほんと。
JA:だから、その子と。
JB:仕事だから。
※ほんと、無罪だから。
JA:ふーん。
JB:やっぱ食べに行く?
※機嫌直してよ~。
JA:着替えたら作るから。コンビニ行ってきて。明日の食パンと卵がない。あと今日のデザート。
※だから作るって言ってるでしょ!
JB:オッケー。デザート、何がいい?
※具体的な指示お願いします。過去の経験上、和系か洋系だけは指示してもらわないと。
JA:生クリーム系の。かわいいの。
※私の美的センスと、味覚に合うもの。
JB:っていうか。えーっと。
JA:写メして。選ぶから。
JB:わかった。あ、あとさ。
JA:何か要るものあったら、買っといて。
JB:いや、そうじゃなくて。あの、うちの母親の誕生日なんだけど。
JA:来週だっけ?
JB:行ける?
※こちら重要案件です。
JA:断れないでしょ。
JB:プレゼント、どうしよっか?
※こちらも重要案件です。
JA:あなたが決めて。
JB:でもさ。
※勝手に選ぶと怒るから。
JA:あなたが選ばないと、お義母さん喜ばないから。
※勝手にすれば?
JB:何がいいかな。
※相談しないと怒るでしょ。
JA:お義母さん、かわいいもの好きだから。適当に、かわいいものでいいんじゃない?
※このかわいいは、「わけわかんない」「平凡」「無関心」などを意味する。
JB:一緒に選んでくれない?
※誘わないと怒るから。
JA:無理。お義母さんのかわいいって、よくわからないから。
※このかわいいは、「ダッサ!」「趣味悪すぎ!」を意味する。
JB:花とか?
JA:お義母さん、お花が好きなの?
JB:どうかなぁ。どう思う?
JA:いいんじゃない?
JB:じゃあ、花。あと、何がいいかな。
JA:他にも買うの?
JB:いや、花だけって、なくない?
※花とプレゼントって、セットでしょ。
JA:私の誕生日、花だけだったよね?
※お義母さんには両方あげるわけ?
JB:薔薇の花束がいいっていうから。けっこう高かったし。
※予算もあるし。
JA:ケーキもなかったよね。
JB:そっか。ケーキも買わないと。おすすめって、ある?
※美味しいのにしよう!一緒に食べられるし。
JA:ケーキ&かわいいで、検索すれば?
※このかわいいは怒りの表現。お義母さんには花とケーキとプレゼント?はぁ?
JB:そっか。かわいいケーキ、了解。
※何となく「ラブリーな動物」「ピンクの花」などが飾られたケーキをイメージしている。
JA:先にコンビニ行って。
※今は顔も見たくない。しばらく外にいてくれ。
JB:わかった。じゃあ、行ってくる。かわいいデザートと食パンと卵ね。
※何となく「イチゴ」系かなと思っている。
JA:写メしてね。決めるから。
※早く行ってくれ。
JB:オッケー。
確認
1:たとえば夫婦関係のように、互いの緊張感が薄れるに従い、ますます会話が嚙み合わなくなっていく場合があります。
2:かわいいを繰り返し使う場合、相手への無関心・嫌悪感などが込められている場合があります。
対処法
親しい間柄だからこそ、丁寧に対処しないとダメなのです。
ある意味で、よそよそしくすることが、この状況を改善するかもしれません。
双方とも、相手に対する誠意と敬意が欠如していることに気づきましたか?
復習のためのケース
かわいいが、どれほど複雑に使われるのか、少しはご理解いただけたでしょうか。
ここで、復習をしてみましょう。
※KA女性。LA女性。友人。ショッピング中の会話。
KA:あれ、かわいいと思わない?
※「あれ」とは、ドレス、靴、バッグ、アクセサリー、化粧品、特に新しいタイプのチークなど。
対象物がかわいい場合もあるが、多くのケースでは別の意味がある。
想定される意図は、「私はあれを好む」「私に似合いそう」「あんたには似合わないんじゃない?」など。
LA:ほんと!かわいい!
※意図は「なに言ってんのよ。あんたには無理。私に似合う」かもしれない。
あるいは「そうだね。あなたに、すごく似合ってると思う。私も好きだよ」かもしれない。
「そう?別にかわいくなくない?」という場合もある。
つづく